【感性を砥ぎなおす #3】価値とは何かを考える(靴編)

【感性を砥ぎなおす #3】価値とは何かを考える(靴編)

自身の学びと経験のストックという無形資産をアイディア創出のために再活性化する試みである、「感性を砥ぎなおす」シリーズの第3回です。今回は、初めて上場企業の海外子会社をまかされた時の感覚を思い出しながら、価値とは何かについて考えてみようと思います。なお、深く考えると終わりのないテーマですし、このシリーズの趣旨からも、軽く考えるだけですのであしからず。

読者の皆さんも価値については日常的に考える機会があると思います。買い物ひとつをとっても、「この商品を、この価格で、今すぐ買うべきか?」といった価値判断を行っているはずです。この例の購入可能な商品のように、その価値に価格という比較的わかりやすい尺度のあるものもあれば、人の存在価値のように、何かしらの価値があることは間違いありませんが、それがどの程度かを表現することが非常に困難なものもあります。

また、価格が付いていたとしても、その価格が価値に見合っているかどうかは、人それぞれであり、価格が高いからと言って、価値が高いかといえば、一概にそうとは言えないのではないでしょうか?

100万円のレアな宝石

例えば100万円の値付けがされた世界でただ一つの宝石があったとします。皆さんはこれに価値を感じて購入するでしょうか?単純に資金力があれば購入するのでしょうか?宝石の価値を理解でき、転売ルートがある人は、借金をしてでも購入するかもしれませんし、宝石に興味のない人にとっては、それがいくらであっても価値を感じないでしょう。では、この宝石に10円の値付けがされていた場合はどうでしょうか?宝石の価値の分かる人は、10円である理由を探そうとするでしょうし、偽物でも実害がほとんどないため、とりあえず購入する人もいるでしょう。更には、「タダほど高いものはない」という事で購入しない、リスク感度の高い人や、100万円で買うことに意味があるのであって、10円で購入しようとする行為が品格に影響すると考える人までいるかもしれません。

このように、価値が分かりやすい価格のついた商品でさえ、それ自体の価値評価だけでなく、それを購入する人の価値観や社会的背景、購入するプロセスに至るまで、価値判断の材料となりえます。

ビジネスパーソンの装い

前置きが長くなりましたが、私が初めて海外子会社を任された際に購入した靴の価値について考えてみます。

私の最も尊敬する経営者の一人であり、当時の上司であった方から、ビジネスにおける服装について、「相手にとって失礼がないことはもちろん、同席する自分の上司や、自分を紹介して下さる方が恥ずかしくない服装を心掛けなさい。」と指導を受けていました。こういった経緯もあり、本社の代表として恥ずかしくないよう、まずは形からということでスーツを新調しました。精一杯の背伸びをして、イタリアの高級生地であるErmenegildo Zegnaを専門に扱う銀座のテイラーにお願いしました。生地、ラペル、ポケットからボタンに至るまで、一つ一つ選ぶのですが、初めてのテイラーメイドということもあり、色々と教わりながら、緊張しつつも楽しい時間だったことを今でもはっきりと覚えています。

偶然の出会い

そして、採寸も終わりショップのあるビルから出ようとしたその時、そのビルの1階にあったショーウインドウの靴に一目惚れをしてしまいました。見た瞬間に購入しようと決意したその靴が、これまで私が購入した靴の中では間違いなく断トツの高級品で、値札を見たときに我が目を疑いました。その靴がこれです。

My Berluti Alessandro

「ベルルッティ」。。。当時は、恥ずかしながら、購入するまでこの最高峰のブランドを知らず、後で調べて、背伸びの程度が仕立てたスーツどころではないことを知りました。

熟練のキャビネット職人であり、洗練美の賛美者でもあったアレッサンドロ・ベルルッティが、かの有名なレースアップシューズを考案したのは1895年のことでした。以来、この革新的スーリエはベルルティ家4世代にわたり受け継がれ、再解釈が加えられながら、何年もの年月を経て着々と進化を遂げてきました。一枚革で作られており、目に見えるシームが一切ない、歴史的、そして象徴的モデルであるこのレースアップシューズは、メゾン ベルルッティの象徴となり、メゾンの妥協を許さない断固としたスタイルをもっとも純粋に表現しています。

https://www.berluti.com/ja-jp/legacy-page/

今でも大切な場面ではエースシューズとして活躍していますが、ドレッシーでフォーマルなデザインのためか、非常に人の目に留まるようで、必ずと言ってよいほど、「素敵な靴ですね。」と声をかけて頂けます。特に印象的だったのは、某スペイン企業の取締役会にオブザーバーとして出席する機会があり、そのあとのランチイベントでの出来事です。社外取締役の女性から、「ベルルッティのアレッサンドロですね。とてもお似合いですよ。」と話しかけられました。どうして分かるのですか?と尋ねてみると、「とても有名なデザインですから」とのことでした。その時、ナイキのエアジョーダンが大流行した際に、ファンの間ではレアモデルの話題が盛り上がっていたことを思い出し、私はまだまだ、このクラスのビジネスパーソンの常識を理解していないのだと、ちょっぴり落ち込んだことを思い出しました。

それから靴について勉強するようになり、多少は知識を得たのですが、庶民にとってはそう簡単に買えるものではありません。最近では、価格も分かった上で、決死の覚悟でジョンロブに乗り込んだのですが、最後の勇気を振り絞ることができず、あえなく撤退してしまいました。

最後に

当時はそのブランド名すら知らずに購入しましたが、その靴は、相手からの好感を得るきっかけや、話題を作ってくれるビジネス的な価値があり、また、それを身に着けることで、自分自身に程よい緊張感を持たせる効果といった、「ブランド価値」を経験として認識させてくれました。そして、今では時計や文具などと共に、私のビジネスパーソンとしての商品価値の一部となっています。

当ブログの読者の方はご存じの通り、現在設計しているワークショップの今後の展開を検討していますが、より多くの方々に受講して頂くために、コンテンツの良しあしだけでなく、ブランド価値の観点でも検討をしてみようと、記事を執筆しながら思いつき、このシリーズの目論見通りとなったことに少々驚いています。