【アート思考を考える #9】仮説推論的アプローチで戦略的寄付が生まれるまで(3/4)

【アート思考を考える #9】仮説推論的アプローチで戦略的寄付が生まれるまで(3/4)

今回は、仮説の検討と選択に利用した4つの思考法(マインドマップ、プライオリティマップ、ブレインライティング、コンセプトマップ)の紹介と、私が実際に検討した際に実施したカスタマイズについて紹介します。

まずは、前回設定した普遍的事象は以下の通りでした。

  • 普遍的事象
    1. 売上と利益が増加する施策に対しては投資される。
    2. 自社の課題を解決することで売上と利益に貢献できる。
    3. 事業計画の達成に影響がない施策は妨害されにくい。

マインドマップ

1つ目の普遍的事象に対しては、「売上と利益が増加」に着目し、売上と利益を構成する要素から仮説を連想するアプローチを試みるため、マインドマップを利用して検討してみました。

マインドマップによる仮説検討

マインドマップの特性なので当然なのですが、上位の要素から下位の要素を連想してアイディアを広げて行くため、各要素に極めて強い論理的なつながりがあります。その結果、着目した「売上と利益の増加」の観点で、面白みや意外性はないものの、比較的網羅性のありそうなアイディアが短時間で出そろう印象でした。

改めてマインドマップでの検討を実施してみると、それぞれのアイディアが論理的に連鎖していること、また、ルートの異なるアイディア同士の相関に焦点が当たらない特徴から、イノベーティブなアイディアが生み出される際に鍵となる、「論理の飛躍」がマインドマップ単体では起こりにくいことを確認できました。

また、ツールの使い勝手ですが、マインドマップのテンプレートはシンプルな操作で迷いようがなく、要素の整列も簡単で、レスポンスも極めて良く、好印象でした。

事業課題のプライオリティマップ

2つ目の普遍的事象に対しては、「自社の課題を解決」に着目し、いきなり仮説の検討を行うのではなく、プライオリティマップで自社の課題を優先度(社会貢献バイアスの価値×難易度)で整理することから始めました。そして、整理した課題を観点として、優先度を意識しながら仮説の検討を実施しました。

プライオリティマップを応用した仮説の検討

こちらは、マインドマップの場合とは異なり、それぞれの課題が観点となるため、多様なアイディアが創出されやすい思考法となります。効率的に仮説を検討するため、近い課題をグルーピングし(この例では4種類で色分け)、それらを俯瞰的に捉えて検討します。そして、グループ化された課題は、「近からずも遠からず」という特徴から、複合的な仮説が創出される可能性が高まるという副次効果があると考えています。

ツールの使い勝手ですが、テンプレート自体はフレームに加えて、4色の付箋紙が複数枚、標準で近くに用意されているという細かい気づかいが好印象です。今回は課題に対して、それに紐づく仮説のアイディアをコメントという形で記録しました。コメントは課題の付箋紙に紐づけれら、クリックすると表示されます。また、コメントを一覧表示する機能もあり、私のカスタマイズした思考方法に対して、標準機能で対応することができました。ただ、付箋紙に入力するテキストサイズが標準で自動に設定されており、ちょうどよい大きさにするためには、改行を入れるなど、少しストレスを感じました。

ブレインライティングでスパーリング

3つ目の普遍的事象に対しては、「事業計画の達成に影響がない」という部分に着目し、独創性のあるアイディアの創造を目的として、ブレインライティングを利用することとしました。

ブレインライティング形式でのスパーリング

ただし、私が、いわゆるデザイン思考における、単なるアイディアの発散のために実施するブレインストーミングに異を唱えている通り、単なるブレインライティングも個人の独創性を多少反映しただけの質の低いアイディアが量産されるだけであると考えています。そこで、仮説検討の背景を共有できている人や、視座の高さが似通った信頼できる仲間をスパーリングパートナーとして、ブレインライティングの形式をとりつつ、議論を交わす思考方法にカスタマイズして実施しました。(スパーリングパートナーとは、ロベルト・ベルガンテの著書、「突破するデザイン」で紹介されているコンセプトです。)

この議論のスタートラインとしては、「事業計画の達成に影響がない」という観点から、「寄付」、「ボランティア」、「確保済み予算の着せ替え」という3つに肉付けする形で議論を進めました。

結論としては、これまでの2つと比較して、質の高い仮説が創出された印象です。しかし、これはメンバーのビジネススキルの高さに依存すると考えられ、マインドマップは仕組み上の課題があるため横に置くとして、2つ目の事業課題を観点とするアプローチは、ブレインライティングを用いたこの方法で、同様に質の高いアイディアが検討できると考えられます。

ただし、本来のブレインライティングのように、短時間で多くのアイディア創出を狙ったものではなく、議論に時間を要するため、プライオリティマップで優先度の観点とグルーピングによる効率化を事前に実施することは有効であると考えられます。

最難関、コンセプトマップで仮説の選択

これまでのステップで多くの仮説が検討されました。様々な観点から異なるアプローチで創出された仮説は、種類はもちろん、実現難易度を含む、あらゆるレベル感がバラバラです。これらの仮説から、Step4として、実行すべき仮説を選択します。このプロセスではコンセプトマップをお勧めします。

コンセプトマップ
コンセプトマップによる仮説の統合と再創出

イノベーションを起こす可能性のある、複合的かつ重層的な優れた仮説という前提であれば、正確には「選択する」のではなく、「統合し再創出する」という表現が正しいかもしれません。コンセプトマップは制限なくアイディアを関連付け、その関係性も表現できるため、複数の要素を一体として俯瞰することが可能です。これまで創出された仮説やそれにまつわる要素やアイディアを、分類、整理、関連付けを行いながら、中心の要素に仮説を創出します。今回の事例では、「寄付で事業課題を解決する。」が選択(統合と再創出)された仮説となります。

このプロセスは単純なアイディア創出技法とは異なり、知識や手順を超えた知恵(センス)と閃き(運)に左右される領域であるため良好な結果の再現性が低く、最難関のプロセスとなります。

最後にまとめて、ブレインライティングとコンセプトマップのテンプレートの使い勝手ですが、付箋紙へのテキストフォントサイズの課題はあるものの、それ以外は極めて良好で、図形間を接続する線に対する操作については、パワーポイントよりも遥かに優れている印象で全く不満がありませんでした。

次回は、アート思考の最後のプロセスであるビジネスモデルの創出について、日経ソーシャルビジネスコンテストで実際にプレゼンテーションしたビジネスモデルを例題としてご紹介します。