【働かないおじさん #5】リスキルワークショップ(3/3)

【働かないおじさん #5】リスキルワークショップ(3/3)

今回は、ワークショップの演習問題である「究極の一皿」を実施した際の、参加者の解答内容の傾向と、このワークショップが単なる思考ゲームではなく、実際の業務に適用できることを理解してもらうためのプロセスについて紹介します。

まずは自由な発想で

まずは、演習問題と創意工夫が全くない、理解のためだけの解答例を提供し、個人ワークをしてもらいます。そうすると、事前に意識改革セミナーを実施したかどうかにより、「働かないおじさん」たちの成果の質に大きな違いがあります。アート思考による思考訓練が自身のメリットになると感じている度合いが大きいほど、解答に創意工夫をしようとする意気込みが垣間見えます。意識改革セミナーを未受講の参加者の解答は、それはひどい手の抜きようで、まさに「働かないおじさん」の本領発揮という感じです。しかし、頑張ろうとする、動機付けされた「働かないおじさん」の解答も、案の定ですが、全く持って想定の範囲内の内容となります。解答例でフランス料理が提示されていれば、日本料理だの、ベトナム料理だのに、ちょっと面白そうな食材を探してきて付け足すといったパターンが多いでしょうか。

一方で、若者はというと、やはり、若さというか、パッションというか、色々と工夫をしようとあれこれ仕込んできます。顧客や素材に対する異常に細かい設定や、笑いを取ろうとネタの仕込みも見られます。しかし、すでに大手企業の社会人として論理的に鍛えられたに若者たちの中で、レストランという物理的制約や料理として食糧を提供するという、常識の枠を飛び越えられるような人は滅多に現れません。

そう、トレーニングをしていない「働かないおじさん」の創造力と若者たちの創造力は、イノベーションというレベル感では、大して違いはないのです。

とにかく奇抜なアイディアを

そこで、とにかく奇抜なアイディアを要求してみると、多くの人はフリーズして、しばらくすると周囲を見回し、ぼそっと「難しい」とか「思いつかない」とつぶやくことが定番です。私は、その行動パターンの画一性に、入社当時は多様性を持っていたはずの人材、たとえ採用基準でそれなりにフィルターがかかっているとしても、その人材を均質化してしまう、企業教育に恐ろしさを感じました。

年代を問わずに見られた、創造性の欠如について、もう少し詳しく見てみます。私から受講者に対して、いくつか斬新な例を参考として提示すると、今度はそれに縛られ、それに似たものを探そうとするのです。その様子を見て、仮説推論のアプローチで柔軟に仮説を生み出す手法を学ぶ以前に、まずは、抽象化や具体化、分解や統合といった、基本的なアイディア創出技法の訓練の必要性を認識し、育成プログラムの修正に着手しました。

顧客を自分の上司と設定してみる

さて、この演習問題でのトレーニングが実際の業務でどのように活用できるのかについて、自由な顧客設定とレストランのコンテキストで理解されることはまずありません。なぜなら、最初に顧客設定を自由にしているのは、奇抜な設定がアイスブレイクとして、グループワークを楽しむきっかけとなることを狙っているからです。そこで、今度は顧客を自分の上司に設定してもらい、料理ではなく自分がチームや組織に提供する成果や価値という形で議論を進めます。そうすると、奇抜すぎる設定が抑えられ、急に現実的になります。そして、顧客を上司に設定すると同時に、会社の戦略に基づく上司のKPIをしっかり理解したうえで、受講者が上司では思いもよらない斬新な方法を提案している状況をイメージしてもらいます。受講者自身がアイディア自体を思いつくことはなくても、そのような提案ができれば、上司の評価が格段に高くなることは理解できるようです。

社会貢献についても考えてもらう

昨今の大手企業で社会課題の解決を掲げない企業はほとんどありません。そこで、顧客である上司の属性に、ESG経営やSDGsのキーワードを加えてみましょう。社会起業家への道へ続くアイディアを考えたり、議論したりする場を作ることができるので、当ブログの読者には是非とも実践してほしいです。

最後に、IT業界の受講者に対して、私が最近紹介している「未来と芸術展」で見かけたイノベーティブな解答例をご紹介しておきます。

フードプリンターによる未来の寿司