【ゼロから学ぶXR技術 #5】本当に欲しいものは意外と買えない(3/3)

【ゼロから学ぶXR技術 #5】本当に欲しいものは意外と買えない(3/3)

ようやく到着したWindows PCに、本来の目的だったXR技術を学ぶために必要なソフトウェアを次々のインストールしていきました。このマシンがやってくるまでは、MacBookで3Dモデルを作成し、それをUnityにインポートして、開発の基本的なプロセスを確認していました。しかし、さすがにProでない普通のMacBookでは、そもそもの用途が違うこともあり、その動作速度は、相当厳しい状態でした。

そして、こいつの出番です。すばらしい!これまでとのギャップもあるでしょうが、すさまじく動作が速い。明らかに私のCPUが遅すぎて、パソコンが私を待っている感覚です。なんだかうれしくてあれこれ起動して楽しんでいると、すぐにこいつの弱点の一つが表面化しました。ウィーーーーン!ファンの音がすさまじい事に。これまで随分長い間、ファンレスにSSDの組み合わせの静寂マシンしか使ってこなかった私には、ハンディ掃除機並みの騒音はかなりの衝撃でした。

自宅で作業するときは、Apple musicでジャズでも流しながら騒音をごまかすか、AirPods Pro のノイズリダクションで集中する作戦で良いとしても、普段は様々なロケーションのシェアオフィスで仕事をしており、周りの人の迷惑を考えると、こいつを連れて行くのはかなり気が引けます。とはいえ、折角、持ち運び可能なパソコンなのですから一度はと思い、最寄り駅にあるカフェでどんな感じかを試そうと、ギラギラ光るキーボードの設定をオフにして、カバンに詰め込もうとしたところ、なんと充電器の重いこと!その重量は、なんと884グラムもあるのです。普段持ち歩いているMacBookは1日中バッテリーだけで動作するので、本体だけを持ち歩いているのですが、その重量はわずか924グラムです。

そして、角ばっている上に、かさばるのです。充電器を別のケースか何かに入れないと、PC本体が傷だらけになりそうです。

そして、ふと、このシリーズの売り文句に、「世界を飛び回るプロゲーマーにも最適」といったことが書かれていたことを思い出して調べてみると、この充電器は飛行機の「機内持ち込み可能なギリギリのサイズ」であることが前面に押し出されていました。

いやいや、スーツケースは「持ち込み可能」と「大きさ」を訴える戦略に合理性がありますが、充電器で大きさを訴求されてもね、と困惑しつつ、この不思議な観点から何かを閃かなれれば、イノベーターとは呼べないのかもしれないと、アート思考を研究するものとして、自分の短絡的な発想を反省しました。

結局、超省スペースなデスクトップパソコンとして、自宅の机に据え置きされることになったのですが、まあ、VR関連の実験にはHMDが必須なわけですし、そもそも、そんなものは持ち運べません。このように、自分を納得させて、お待ちかねのVR体験です。HMDを接続してみようとすると、あれ?ケーブル形状がピッタリあうところがないのです。このラップトップは最新型のモンスターマシンなので、あらゆるインタフェースを標準装備しています。接続できないものなどあるはずがないのです。

一方で、HMD(VIVE Cosmos)は発売されたばかりの最新モデルで、VRを楽しめるようなグラフィックボードを搭載したパソコンに接続できないなどありえないのです。それこそ、2大メーカの一つであるNVIDIAの上位モデルに接続できないなど。

そして、サルでも接続できると言わんばかりに、セットアップの説明書はパソコンの後ろにケーブルを刺せというイラストだけでした。

しかし、どこを何時間探しても適切な接続ポートはなく、ネットで検索しても、誰もこんなところで躓いてはいないのです。技術者としてのプライドが粉々に崩れ去ろうとしたその瞬間に、ふと目に入ったコネクタの形状に違和感を覚えました。HMDというAV系の機器からパソコンに接続するはずのコネクタは、HDMIだと勝手に思い込んでいたのですが、よくよく見ると大きさと雰囲気が似ている別物でした。

そいつはディスプレイポートというAppleが開発した、Macユーザには超おなじみのインターフェースだったのです。しかし、Macはおしゃれなデザインが優先されるため、通常はミニディスプレイポートが搭載されており、私はこの大きなコネクタになじみがなかったのです。そう、我が家のモンスターラップトップはMacと同じくミニディスプレイポートが搭載されており、HMDにバンドルされている大きなコネクタは接続できなかったのです。

HDMI?いえいえ、大きい方のデイスプレイポートです。

要するに、ラップトップでVRをやろうというのは変人だったのです。HMDメーカはそんな人を想定していないので、ケーブルが同梱されていないのです。仕方がないので、両端がミニディスプレイポートのケーブルを購入しようとしたのですが、これがまたニッチな商品で、その辺りの家電量販店レベルでは全く取り扱っていません。ネットなら何とか探せたのですが、意地でも今すぐ接続したいとムキになり、東京の某大手家電量販でようやく1本見つけることができました。店員さん曰く、このケーブルは自宅のiMacを外部ディスプレイとして使いたいお客様ぐらいしか欲しがらない、売れないケーブルなんだそうです。

両端がミニディスプレイポートのケーブル

そして遂に

我が家のVR環境が整い、無事にVRゲームや、VR空間に仮想デスクトップでパソコン画面を表示し、映画館のような環境で動画を楽しむことができるようになりました。VRヨガもやってみたのですが、HMDが邪魔すぎてありえないと瞬時に思いましたが、破壊的イノベーションの過去事例を考えると、HMDが眼鏡ほどのサイズになった時、ヨガの世界にブレイクスルーが起こることを予見した人の作品かもしれないと、この意味不明なコンテンツの存在を無理やり納得してみました。

如何でしたでしょうか?もともとはXR技術を勉強するために、GPUだけ高性能なコンパクトで安価なパソコンが欲しいだけだったのですが、どこを探してもそんなものはなく、また、コストを犠牲にしてラップトップを購入しても、本来の持ち味を発揮できない結末でした。今回のことで、本当に欲しいものは、お金をかけても意外に手に入らないということを、改めて思い知ったというお話でした。