【非営利法人設立日記 #1】 なぜ営利企業のイノベーションとESGの取り組みはパッとしないのか?その1

【非営利法人設立日記 #1】 なぜ営利企業のイノベーションとESGの取り組みはパッとしないのか?その1

しばらく投稿をお休みしていましたが、新たな人生の方向感が定まったため、それが大きくブレないように、方向転換するに至った思考の整理と、今後のアクションを考えるきっかけのツールとして、のんびりですが投稿を再開しようと思います。

いきなり横道にそれますが、これを機にレンタルサーバの引越しをしました。お名前.comからエックスサーバーへの引越しでしたが、噂通りエックスサーバーの方が快適です。管理メニューもスマートでアクセスしやすく、また、お名前.comのしつこくドメイン継続を強要するUXにも辟易していたので、とても満足度が高いです。ブログの引越しは少々心配でしたが、ツールが提供されていて、それほど苦労することなく、こちらも無事に完了しました。

さて、営利企業との非営利法人の連携による、新しい社会貢献の形として戦略的寄付のビジネスモデルでについて、これまで約1年にわたり提案してきましたが、ようやくその実現の目途が立ちました。そこで、このシリーズでは、日本有数の大手IT企業に所属している私が、そもそも何故、非営利法人を立ち上げる必要があると考えたのか、また大手企業単体ではイノベーションやESG経営を推進することが困難であると考える理由について、経営の観点から説明してみようと思います。そして、これから私自身が実際に非営利法人を設立する際に演じるであろうドタバタ劇も、あわせて綴ってみようと思います。

エージェンシー問題

ようやく本題ですが、皆さんはエージェンシー問題という言葉を聞いたことがあるでしょうか?エージェンシー問題とは、二人の関係をプリンシパルとエージェント、今回は依頼者と実行者ぐらいのニュアンスがわかりやすい思いいますが、その2者間の目的の違いが引き起こす、モチベーション低下の問題のことをいいます。

会社での一場面から具体例をあげると、以下の図のような感じです。

管理者の思いと、現場担当者の心の声

最近は、皆さんの中にもテレワークで仕事をされている方が多いのではないでしょうか?上司から、「生産性向上」を合言葉に、色々な取り組みをさせられたり、やたらとアンケートを取られたりしていませんか?また、管理する側の立場の方は、売上や利益が減少しているのに、現場の勤務時間が増加している現象に頭を抱えていませんか?では、なぜこのようなことが起こるのでしょうか?

それは、お互いの利害関係、すなわち目的が一致していないことが原因なのです。この例では、管理職は現場の生産性を高めることで、自身の評価が上がり、昇給や昇進につながります。そのため、あの手この手で生産性を向上させようと努力します。一方、現場担当者としては、生産性を向上させることで残業が少なくなり、給与が減少することにつながる可能性があります。また、自分ひとりが頑張ったところで目に見えて生産性が上がるはずもなく、加えて、生産性向上で自身の給与が増えるわけでもありません。

アドバースセレクション

このエージェンシー問題に加えて、更に状況を悪化させる原因としてアドバースセレクションと言われる問題があります。アドバースセレクションとは、お互に把握できている情報に不均衡(非対称性)があり、それが引き起こす問題のことです。

先ほどの例で説明すると、管理者は現場担当者の勤務態度について、オフィスで席を並べていた時とは違い、実際に何をしているか把握することができません。現場担当者はそれを理解しているので、その情報の不均衡(非対称性)を利用して、自分が有利になるような行動を起こしやすくなります。一方で、テレワークが本格化したころから、動画配信サービスのトラフックが劇的に増加していることを管理職は把握しており、疑心暗鬼になるわけです。

モラルハザード

このように、営利企業においては、組織構造や人事制度の問題でエージェンシー問題とアドバースセレクション問題が起こりやすい環境にあり、モラルハザードが発生する温床となっています。このメカニズムを理解すれば、管理者がとるべき生産性向上へ向けた打ち手は、現場担当者の行動を監視する方向性ではなく、作業範囲の明確化と、成果物やプロセスの見える化を通して、現場担当者の仕事を正しく評価に反映させる仕組み作りと、その仕組みを担当者と合意する方向性を目指すべきであると考えられます。

モラルハザードとイノベーション

営利企業においてイノベーションの取り組みがパッとしない原因は、株主と経営者、加えて、経営者と管理職との間に起こる、エージェンシー問題とアドバースセレクション問題が引き起こすモラルハザードにあります。

先ほどの具体例を株主と経営者に置き換えてみます。

株主の期待と経営者の本音

経営者と管理者に変えてみると、

経営者のたくらみと冷静な管理職

如何でしょうか?皆さんの会社に本気でイノベーションに取り組んでいると感じられる経営者や管理職はいるでしょうか?もしYes!であれば、それは非常に幸運な組織に所属されていると思います。特に大きめの企業においては、人事や給与、組織といった構造上の問題でモラルハザードが起こりやすい中、正しい事に邁進できる誠実な経営者や管理者は大変レアな存在だと思われます。(私の経験では、そういう方は大体、変人扱いされているようですが。)

このような構造上の課題を抱えている組織の中でイノベーションを推進するにあたり、会社の一部門として、「イノベーション推進室」などという組織を作るこという打ち手は、問題の根本原因である、人事・給与制度や組織文化に何の変化もないため、悪手であることが理解できると思います。論理的に考えれば、打つべき手段はイノベーションを起こすモチベーションをいかにして高めるか、すなわち、イノベーションを起こすことが、そこに参加するメンバーの直接的利益につながるような仕組みをいかにして構築するかと言うことになります。

ESG経営の推進も同じ傾向

SDGsの盛り上がりから流行し始めたESG経営についても、イノベーションと同様に、その推進は大変な困難を伴います。なぜなら、さすがに「イノベーション」という言葉を聞いたことが無い人はいないほどイノベーションは一般化しており、その必要性については総論賛成、各論あれこれという状況です。しかし、ESG経営に関しては、まだまだ、言葉も知らない人に出会うことが結構あります。このように、イノベーションに比べて周回遅れでスタートしたESG経営の推進は、それこそ長期的な取り組みでもあるため、短期的なインセンティブが働きません。また、たとえ仮に成果が出たとしても、売上や利益ではなく、社会的インパクトという良く分からない成果となるため、いよいよやる気が湧いてこないという類のものなのです。

今回のまとめ

巷ではイノベーションやESG経営といった言葉が飛び交っていますが、いつも空々しく聞こえ、なんだかモヤモヤしている人も多いのではないかと感じていました。(私自身も昔はそうでした。)そこで今回は、経営理論の力を借りて論理的に営利企業で起きている具体的な事象を説明することで、この寂しい現状をすこしでも合理性をもって受け入れるお手伝いが出来たのではないかと思います。

もちろん私はこの現実を受け入れることができなかったので、それを打ち破るビジネスモデルとしての「戦略的寄付」と非営利法人としてイノベーションとESG機能の「カーブアウトソーシング」(私が作ったカーブアウトとアウトソーシングを組合せた造語)を提案し、自らその経営手法の正しさを証明していく茨の道を歩もうとしています。このシリーズでは、非営利法人を自ら設立しようと決心したこれまでの思考プロセスと、関連する経営理論について投稿していきますので、興味のある方は、また当ブログにお立ち寄りください。

次回は市場戦略の観点で、大手企業のイノベーション推進がうまくいかない理由を説明してみようと思います。