【アート思考を考える #4】アート思考とは何か?デザイン思考との違いから考えてみる(4/5)
前回の記事で、アート思考を実践するためには、「信念」、「発想力」そして「知恵」の3つが必要であると述べました。そしてもっとも有名な、ソーシャルビジネスによりイノベーションを成し遂げた事例の一つである、グラミン銀行の例を挙げ、ムハマド・ユヌスが強い信念のもと、「貧困層の人々自身がビジネスを持つことで貧困を軽減できる。」という新たな認識を提示したことを紹介しました。
強い信念
この彼の新たな認識が、学者による無責任な提言ではなく、強い信念をもって提示されたとなぜ言えるのでしょうか?それは彼の行動から推し量ることができます。
当時、彼が推進していた貧困救済プロジェクトの中で、村人たちへの融資の必要性について銀行に説明しましたが、全く取り合ってもらえませんでした、そこで、大学の経済学部長であった自身の信用力を使って村人の保証人となり、再度銀行に融資を依頼しました。しかし、それでも融資が受けられず、彼自らが独立銀行を設立することとなりました。強い信念もなしに、ここまでの行動を起こすことができるでしょうか。
次に、「発想力」の重要性と、アート思考においてアイディアの発想を得るためのアプローチである仮説推論について紹介します。
仮説推論によるアプローチ
私たちビジネスパーソンは基本的に理論や法則、また、統計や過去の経験を参照して、物事の妥当性を論理的に判断を下す習慣があります。いわゆる論理的推論の演繹と帰納ですが、これらのアプローチで何かを創造しようとすると、過去の何かと似たようなものが生み出されるであろうことは明らかでしょう。
そこでアート思考においては、第三の論理的推論である仮説推論(仮説形成やアブダクションとも呼ばれる)によるアイディア創造を試みます。仮説推論とは、観察された目の前の事象に対して、普遍的事象を根拠として、その複数の原因の仮説の中から1つを選び出す過程です。
- 観察事象:朝起きたら庭の芝生が濡れていた。
- 普遍的事象:雨が降れば芝生は濡れる。
- 仮説:昨夜は雨が降ったのだろう。
雨が降れば芝生が濡れるという普遍的事象を根拠に、観察された事象の原因の仮説として昨夜は雨が降ったと推論しています。水撒きや夜露の可能性もあり、仮説が正しいわけではないですが、アイディア発想の手法として適しているといわれています。
いかがでしょうか?
アート思考をビジネスで活用する
世間で見られるアート思考や仮説推論の説明では、分かりやすいこのような説明が多く、それ自体は理解できても、ビジネスパーソンにとっては全くビジネスへの適用イメージが湧きません。また、すでに観察された事象(既存のビジネス)に至る仮説をいくら検討したところで、破壊的イノベーションにつながるはずもありません。すなわち、現状ではイノベーションを起こしたい人のために、アート思考が語られていないのです。
そこで、ビジネスにおいてイノベーションを起こしたい人、すなわち、当ブログの読者(仮説)がイノベーションを起こすために実践すべきアート思考の具体的なプロセスについて提案します。
ビジネスパーソンがイメージしやすいように、グラミン銀行の例で説明します。
- 観察事象:貧困層の人々自身がビジネスを持つことで貧困を軽減できる。
- 普遍的事象:元手があればビジネスを始めて収入を得られる。
- 仮説:寄付から配分する。農地を与える。商材を提供する。融資を行う。搾取しない個人事業主モデルを提供する。etc.
- 選択した仮説:融資を行う。
- Step1:自身が提示した認識を観察事象として設定する。(独自手法)
- Step2:論拠とする普遍的事象を設定する。
- Step3:「発想力」を発揮して複数の仮説を検討する。
- Step4:「知恵」を発揮して、検討した仮説から適切な仮説(アハ体験を伴う仮説)を選択する。選択できなければステップ2へ戻って繰り返す。(独自手法)
- Step5:デザイン思考を活用し、実現方法をデザインする。
一般的な仮説推論にグラミン銀行のモデルを当てはめ、具体的なビジネスモデル検討までのステップを示しました。観察された事象にムハマド・ユヌスの認識、すなわち、未来の姿が設定されていることに疑問を感じたかたもいると思います。それも含め、それぞれのステップについての説明は次回の投稿で。