【アート思考を考える #3】アート思考とは何か?デザイン思考との違いから考えてみる(3/5)

【アート思考を考える #3】アート思考とは何か?デザイン思考との違いから考えてみる(3/5)

前回の記事では、これまで顧客と認識していない「無消費」を顧客として捉え、全く新しいアプローチで市場を創造するタイプの市場創造型イノベーション、すなわち、社会起業家にとっての破壊的イノベーションに、デザイン思考は相性が悪いと述べました。

すなわち、目的に対して不適切な手段を用いており、いうなれば、木の板にネジで金具を取り付けたいのに、金づちを握っているようなものなのです。本来利用すべきはドライバーであり、それが今回の話題ではアート思考なのです。

アート思考はその名の通り、芸術家の思考プロセスを参考にした思考法です。デザイナーはクライアントの要望に対して創造性を発揮するのに対し、芸術家は自分の信じる認識を表現するために創造性を発揮します。(私の想定する)芸術家にはクライアントはおらず、世の中に全く新しい認識を、これまでにない手法で表現しようとするのです。

この先の話は、少々小難しい内容となりますが、こちらの書籍は芸術寄りの著者が、アート思考について書いており、ビジネスパーソンが現代アートを知るきっかけとして、大変読みやすくお勧めできます。

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アート思考の3つの柱

私はアート思考を実践し成果を出すためには、アート思考を構成する3つの重要な柱についての理解が必要であると考えています。1つ目は確固たる「信念」、2つ目はその信念を実現するための手段を閃く「発想力」、そして最後が、見出した手段の中から適切な手段を選び取る「知恵」です。

言うまでもないですが、信念、発想力、そして、知恵のいづれも、一朝一夕に獲得できるものではありません。だからこそ、イノベーションは頻繁に起こらず、起こしたいと思っても起こせるものではないのです。

アート思考における信念とは

先ほど、芸術家とは、世の中に全く新しい認識を、これまでにない手法で表現しようとするとする人であると述べました。現代アートのインスタレーションというジャンルを例に説明を試みてみます。(私は現代アートの芸術家の思考方法をアナロジーとしたアート思考により、ビジネスアイディア創出メソッドを体系化することを目指しています。そのため、例えが現代アートに寄ってしまうことを予めご承知おきください。)

インスタレーションは、個々の芸術作品を鑑賞するのではなく、作品が設置された空間に身を置き、その空間を体験することを前提とした芸術のジャンルです。森美術館で最近まで開催されていた「未来と芸術展」でも、音楽や映像に加え、インタラクティブ性も取り込んだ、より現代的なインスタレーション作品が数多く展示されていました。(私はコロナウィルスによる休館の直前に鑑賞できましたが、まだ、見ていなかった方は、森美術館のホームページから3Dウォークスルーが特別公開されており、展示の雰囲気を感じることができます。2020/5/12 執筆時点)

新たな認識:空間の体験を提示する

インスタレーションの芸術家は、絵画や彫刻を目で見て鑑賞するという、当時は一般的な認識(常識)に対して疑問を投げかけ、作品自体に芸術性があるのではなく、それらをどのように配置し、どのような空間をつくるのか、そして、その空間をどのように体験させるのか、という事こそ大切なのであるという信念のもとに創作活動を行っています。

最初にこれを提唱した人の信念の強さを想像してみてください。誰から依頼されるわけでもなく、自分の感性を信じて創作活動を続け、周りから認められることはなく、誹謗中傷すらあったでしょう。しかし、現在では1つの芸術分野として成立するまでの認識を得ています。

アート思考のスタート地点

この例から分かる通り、芸術家の思考方法を応用するアート思考のプロセスでは、現状の認識に対して、本当にそうなのか?という問いを立て、自身の理想、正義、夢や希望といった価値観に従い、自身の認識は正しいという信念を持つことが第一歩となります。

グラミン銀行の場合はどうか

当時のバングラデシュは、世界最貧国とも呼ばれるほど貧困層を多く抱える国とでした。そして貧困家庭に生まれた子供は、教育を受ける機会もなく、貧困が連鎖することは仕方のないこと認識されていたに違いありません。(先進国の中で、相対貧困率が極めて高い現在の日本でも似たような認識ではないでしょうか?)

しかし、母国を愛する多くの知識人たちは、すべての国民は豊かに暮らす権利があり、そのために行動を起こすべきだと考えていたはずです。そして、その一人がグラミン銀行の創始者であり、後にノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス博士でした。

彼はソーシャルビジネスの父とも呼ばれ、彼の強い信念のもと「貧困層の人々自身がビジネスを持つことで貧困を軽減できる」という全く新しい認識を提示しました。

アート思考における3つの柱の残り2つ、「発想力」と「知恵」については次回の投稿で。