超域人材とは? 複雑系社会でイノベーションを起こす変革リーダー(1/2)
私は、これからの複雑系社会において、「超域人材」こそが継続的にイノベーションを起こし、社会変革のリーダを担う存在だと考えています。特に、ソーシャルビジネスのように、営利活動に偏重することなく、持続可能な社会の実現に向け、真摯に向き合う必要がある分野において、強力なリーダーシップを発揮できると考えています。
超域人材とは、Art, Science, Engineering, Designのいずれかの領域で専門性を持ちながら、全領域に対する知見を有し、それらを融合させることで価値を創造する人材
https://social-bizcreator.com/blog/2020/05/24/whatsartthingking06/
しかし、一般的な大企業で行われてきた人材開発の仕組みでは、仮に、超域人材としての素養があったとしても、それを伸ばすどころか、経験やスキルのポートフォリオに個性がなく、交換可能な従来型の人材像に収れんされていくことが多いように思われます。
このような背景から、大手企業ではあまり見かけることのない、超域人材のイメージを読者の皆さんに掴んでもらうため、人材開発におけるこれまでの傾向や最近のトレンドを、KCC(Krebs Cycle of Creativity)の4つの領域と対比しながら説明してみたいと思います。
20年先を見据えた従来型の人材開発
昔から大手企業においては、総合職と一般職というように、採用する時点で役割を明確にし、それに合った人材開発を行うことが多いようです。通常、総合職とは会社の中核を担うことを想定した職種で、一般職はそのサポートをする人たちの職種となります。また、総合職の中でも一部の優秀層は幹部候補と呼ばれ、将来のリーダーとなることを期待されます。
人材開発においても、それぞれの役割に応じたプログラムが準備されており、一般職であれば、限定された領域でのスキル向上に向けた育成がなされます。例えば、技術を担当する一般職社員は、技術領域(エンジニアリング)での研鑽が中心となります。
それに対して、総合職社員は、まさに総合力を高めるために、様々な部署に意図的に移動させられて、技術領域(エンジニアリング)の現場作業から高度な知識(サイエンス)が必要な研究や管理作業までを広く経験します。また、幹部候補については、学生時代にリベラルアーツを学んだ優秀層を選抜したり、入社後に特別プログラムで留学させ、MBAのような知識領域だけでなく、哲学(アート)といったキリスト教世界の本来のリベラルアーツに触れさせたりと、より広い領域での総合力を鍛えることもあるようです。
しかし、長期視点で大規模に進められる人材開発ゆえの弊害として、それが設計された当初に期待された人材、すなわち、社会環境が全く異なる前時代に求められた人材像の社員が量産されてしまいます。そして、時代の急速な変化に適合できなくなった瞬間、社会の変化を正しく理解することも、それに適応するために変化することもできない社員で溢れかえることになるのです。
大手企業にイノベーションが生み出せなくなった訳
クレイトン・クリステンセンが、彼の著書「イノベーションのジレンマ」の中で、大企業は自身の成功体験とそれに紐づく経営判断から、新興企業に後れを取り、新興企業が起こすイノベーションにより駆逐されてしまうことが述べられています。また、その危機から脱する方法については、明確に記されていなかったと記憶しています。
イノベーションのジレンマ 増補改訂版【電子書籍】[ 玉田俊平太, Clayton M. Christensen, Harvard Business School Press ] 価格:2,200円 |
日本のイノベーションのジレンマ【電子書籍】[ 玉田俊平太 ] 価格:2,200円 |
自社が駆逐されるまで行動を起こすことができない組織を構成しているのも、新しいチャレンジの意思決定を行えないのも、その企業に所属する社員であり経営者、すなわち人であり、その根本原因である人材に手を打つことなく、いかなる組織や意思決定プロセスを変更しても、有効に機能しないというのが私の考えです。
そこで、変化が速く複雑化した現代社会において、継続的にイノベーションを起こし、社会変革のリーダとして活躍できる超域人材とはどのような人材なのか?そして、当ブログで取り上げているアート思考、デザイン思考、そして「働かないおじさん」がどのように関連しているのかについて明らかにしていきたいと思います。
経営を志すなら、高い次元の総合力
ずいぶん昔に、知人が教えてくれたのですが、ハーバード大学の合格基準の一つに、「極めて高い専門性か、高い次元の総合力を有している」というものがあるそうです。極めて高い専門性を持つ人のプロフェッショナルとしての将来像を、KCC(Krebs Cycle of Creativity)の4つの領域である、アート、サイエンス、エンジニアリング、デザインにおいて、誇張して表現すればこんな感じでしょうか?
- アート:天才的ではあるが、感性が違いすぎて、母国語でもコミュニケーションが成立しないような芸術家。
- サイエンス:すさまじいIQを誇り、研究室にこもりっぱなしのノーベル賞を狙う科学者。
- エンジニアリング:神の手を持つ、頑固一徹で全く融通が利かない技の匠。
- デザイン:柔軟性と合理性を併せ持ち、最適な組み合わせを導き出す、クライアントとルールに縛られたデザイナー
上記の4タイプの人材が、ビジネスの世界でリーダーとなるとは到底思えません。人材の方向性を二つから選ぶとするなら、当ブログの読者が育成すべき、または、目指すべき人材の方向性は「極めて高い専門性」ではなく、「高い次元の総合力」となります。
予定執筆量をずいぶん超えてしまったので、続きは別途ということで。