【働かないおじさん #4】リスキルワークショップ(2/3)

【働かないおじさん #4】リスキルワークショップ(2/3)

今回は、リスキルワークショップで実施している演習から、「究極の一皿」について紹介します。

演習問題

あなたは某レストランのオーナーです。あなたは顧客である私に「究極の一皿」を提供することになりました。顧客がどのようなキャラクタ(嗜好や性格など)であるのかを自由に設定し、その顧客がこれまで経験したことがない、「究極の一皿」のレシピを以下のフォーマットで公開して下さい。

顧客顧客のキャラクタを自由に設定して下さい。そして、その顧客はそう言う人間であると激しく思い込んで下さい。
料理名提供する料理を象徴する名称を付けて下さい。
論拠その料理が顧客を満足させられると考えた根拠について、次の書式で表現して下さい。「世間一般では、XXXXは必ずZZZZなので、これらの素材を使ったこの料理は、ZZZZである顧客を満足させられるはずである。」 なお、ZZZZはあなたが設定した顧客のキャラクタです。
素材使用した素材のこだわりポイントをあげて下さい。
その他顧客が満足する論拠を強化するため、自由に表現してください。
究極の一皿のレシピ

前回の記事で紹介した通り、この演習は以下の目的のために設計されています。そのそれぞれについて、順を追って説明していきます。

  1. デザイナーとは異なる、アーティストの思考方法を理解する。
  2. 仮説推論アプローチの体験を通して、発想力の鍛え方を知る。
  3. 論理の飛躍とアハ体験を知り、運が良ければ経験する。
  4. デザイン思考によるサービスの最適化を経験する。

デザイナーとは異なる、アーティストの思考方法を理解する。

以前の記事で触れたように、デザイナーとアーティストとの最大の違いはクライアントがいるかどうかです。デザイナーはクライアントの注文に対して、一定の枠組みと存在する素材や手法を組み合わせて表現します。それに対して、アーティストは自分の認識を信じ、それを表現可能な方法を創造しようとします。

この演習では、顧客は料理を注文しません。顧客の嗜好や性格はアーティストである受講者が自分で信じる顧客像を対象顧客として設定します。そして、その顧客が満足する究極の一皿を、顧客のニーズも聞かずに作り上げます。アート思考のアプローチで新規ビジネス創造を目指す人たちは、顧客自身は何が欲しいか理解していないと考えています。したがって、顧客を理解することは非常に重要ですが、欲しいものを顧客に問う事は意味のないことなのです。

アート思考でソーシャルビジネスを検討することを例にあげれば、過疎化が進む限界集落に住む人を顧客と設定し、その人たちの満足させるための、人口増加に資するサービスが「究極の一皿」と考えれば、意図が理解できるのではないでしょうか。そして、どんなサービスで過疎化を抑制できるのかについて、住民たちにはアイディアがなく、過疎化が進行する一方なのです。

仮説推論アプローチの体験を通して、発想力の鍛え方を知る。

上の表の論拠で示した書式を見れば、以前の記事で説明した、仮説推論のアプローチを体験させようとしていることは明らかですね。仮説推論の詳細については、以下の記事を参照ください。

仮説推論とは、観察された目の前の事象に対して、普遍的事象を根拠として、その複数の原因の仮説の中から1つを選び出す過程です。

https://social-bizcreator.com/blog/2020/05/14/whatsartthingking04/

理解のためだけに、何の創造性もない解答例を挙げてみます。顧客を「フランス食材に強いこだわりのある顧客」と設定した場合、このような論拠が考えられます。「世間一般では、三つ星のフレンチレストランはフランスの食材に拘っているので、あのレストランと同じ仕入れ先のエスカルゴで作ったこの【和風・ノンオイル・エスカルゴ】は、フランス食材に強いこだわりのある顧客は満足させられるはずである。」

このアプローチで多くのアイディアを創造する際に、発想力が物を言うのは間違いありませんが、アイディアの質を高めつつ、量産するコツがあります。それは、論拠の中の、「世間一般では、XXXXは必ずZZZZなので」の部分、仮説推論における普遍の事象の部分を「観点」として、複数の素材を検討します。そして、アイディアが出尽くしたら、観点を変更して、また複数の素材を検討します。観点の異なるアイディアは統合や併用が可能なことが多く、重層的なアイディアに発展する可能性が高まります。

論理の飛躍とアハ体験を知り、運が良ければ経験する。

グループ形式で行うワークショップの場合、グループで1つの顧客の設定を共有したのち、個人ワークで料理を検討します。その後、グループでそれぞれが創造したレシピを共有します。設定を満たす仮説は無限に存在しますから、グループで持ち寄ったレシピを共有することで、「あー、それって面白いですね。」とか、「私のこれと、あなたのそれを組み合わせた方が満足度が高そうです。」といった、様々な意見がでます。ただ、時々、「あっ、そう言うことか!」と大きめの声をあげる人がいます。実際にそう言う人がいるときは、その人に、今の感覚を話してもらえば良いですし、そうでなくても、この文脈で説明することで、他人の指摘やアイディアから「論理の飛躍」を得る機会があること、また、その瞬間の「あっ、そう言うことか!」がアハ体験であることを理解してもらうことができます。

デザイン思考によるサービスの最適化を経験する。

ここまでで、すでにアート思考によるアイディア創出の体験は終了しています。ここからは、グループで合意した「究極の一皿」を実現するための手段について、デザイン思考を駆使して検討します。すでに何を作るべきかは決定しているわけですから、実社会の条件に照らし、現実的かつ最善の組み合わせでそれを実現する方法を考えます。ビジネスパーソンの方の得意領域なので、これ以上は蛇足でしょう。

次回は、実際のワークショップの事例から、単なる手順を知るための演習ではなく、実ビジネスに応用するための演習であることを、どのように受講者に理解してもらっているのかについて紹介する予定です。